一緒に、歩いている。新年のご挨拶

一緒に、歩いている。 - - harness

皆様におかれましてはつつがなく
新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。

昨年は当会に多大なるご支援をいただき、
誠にありがとうございました。

 

私達にとって昨年は大変な試練の年でした。
盲導犬への理解を深めるため、中心となって活動してくださっていた山橋衛二さんと、盲導犬ヴァルデスを交通事故で失いました。
深い悲しみの中、私達の責務は何なのか。
この受け入れがたい現実に対し、
山橋さんのために、ヴァルデスのために、
ご遺族のために何か行動を起こさなくてはならない。
ただそれだけの思いで突き進んできました。

私達ができること、私達だからできることを話し合い、
山橋さんが、それまで伝えてきたことを形にしたいと
追悼パネルを作製しました。
交通安全キャンペーン参加や、事業所訪問を行い
「視覚障害と音」について伝えました。
二度とこのような悲しい事故が怒らないことを願って。

 

 

また、事故を大きく受けて止めて
迅速な対応をしてくださった飯泉県知事をはじめ、
徳島県関係各課・警察・業界団体の皆様には
心よりお礼申し上げます。
国へ警報音義務化への要望書提出。
事業所へ警報音作動の呼びかけ。
そして、12月21日の徳島県議会において
全国初の警報音義務化条例が成立し、
25日より施行となりました。

 

 

このニュースが全国に流れた日、
当会のブログアクセス数が急上昇していたと
担当者より報告がありました。

事故直後、全国から励ましの言葉や温かい想いを届けてくださった方は、その後も事のなり行きを見守ってくださっていたことに気づきました。
ちょうど、一歩前進したと安堵し、
立ち止まってしまっていたときのことです。

 

 

年が改まり、もう一度、私達だからできる事を考えています。
応援してくださっている皆様へ、
この場を通して事故前後の経緯をご報告いたしますので、
一緒に考えていただきたいと思います。

何故 あの時、

何故 山橋さんとヴァルデスだったのか。

あの事故は何のメッセージだったのでしょうか…

一人でも多くの方に理解が深まり、社会全体が変わり、
交通弱者の事故が無くなることを願い、
今年も活動を続けてまいります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

事務局 杉井ひとみ


 

 

一緒に、歩いている。No1

一緒に、歩いている。 - - harness

はじめに

タイトルの「一緒に、歩いている。」は

山橋さんが盲導犬との生活を始めて間もない頃、
作製したポスターのタイトルです。

 

 




















 

事故から3ヶ月が経ちました。

まだ、3ヶ月?というのが実感でしょうか。

いろんな事がありすぎて、なかなか思い出せず、
遠い昔のように思えます。

ただ、この間に不思議な事がたくさん起こり

山橋さんとヴァルデスが、
力を与えてくれたと感じています。

 

 

2015年10月3日午前8時5分事故は起きました。

しかし、事故について伝えていくのは
この日からではありません。

それは2013年から、いや2011年からかもしれない。

今から思えば・・・というところです。

それは、後にお伝えする事にして

まずは事故の3ヶ月前、
7月2日事務局にかかってきた1本の電話から。

 

 

徳島県生活安全課より「秋の全国交通安全運動オープニングセレモニー」に参加し、盲導犬との歩行について紹介して欲しいという内容でした。

もちろん、快諾です。

いつも危険と感じる事を直接、交通安全運動に関わる方に理解してもらえる。

こういう機会をずっと待っていたのです。
 

 

徳島県は、歩道と車道がガードレールや段差で完全分離されている道路は少なく、路肩を盲導犬と並んで歩くユーザーのすぐ隣を、自動車やバイクが通り過ぎていきます。

いつも危険と隣り合わせで、大型車が高速で通り過ぎると風圧でよろめいたり、吸い込まれそうに感じたりすることがあります。

普通車のサイドミラーが当たったこともあるそうです。
 

 

盲導犬歩行は基本的に左側通行をします。

左に盲導犬。右にユーザー。

盲導犬は左端に沿って歩くため、
自然とユーザーが道路の端を歩くように誘導できます。
塀にあたる事も、路肩から足を踏み外す事もありません。

また、ユーザーの左手でハーネスを握るので、
利き手の右手が自由になる利点もあります。

 

 

山橋さんは、
「ユーザーが、車から盲導犬を守ってやれる」と話していました。


 

一緒に、歩いている。No2

一緒に、歩いている。 - - harness

ヴァルデスの引退

盲導犬は10歳(人間の年換算で60歳)になると
引退の目安にします。

ヴァルデスは、2015年10月3日で10歳です。

排泄の間隔が短くなった事。

足腰が弱くなり、歩く速度が落ちた事で引退を決めました。
 

歩行に支障をきたす要素が少しでもあると、
安全性が低下します。

盲導犬は、万全の体調でないと役割が果たせません。

それに、引退後をお願いするボランティアさんにも、
元気なうちに新しい家族として迎えて欲しかったのです。

 

 

ヴァルデスの老化を僕がフォローするから、
翌年まで待って欲しいという山橋さんを、
半年に渡って説得しました。

それでは、せめて阿波踊りが終わって、
10歳のお誕生日をお祝いしてからにして欲しいと、
しぶしぶ承諾。

「ヴァルデスを、絶対に幸せにしてくれる家庭へお願いします。

 それを杉井さんが責任持って探してください。

 ちょっとでも納得いかなかったら、
 引退は延期します。一切、妥協はしません。」

山橋さんのヴァルデスの幸せを願う厳しい条件でした。

引退が10月と決まり、引退先探しが始まりました。

1、ヴァルデスのパピーウォーカーさん。

  引退を待っている場合があるので確認。
 

2、山橋さんの知人で、
  ご自身の退職後に引き取り希望だった方。

  退職が3ヶ月後となるので断念。
 

3、ボランティア登録家族 
  お住いの距離的なことで条件が合わない。

 

4、ボランティア登録家族◆
  ご家庭まで一緒に行ってお見合いをしました。

  ヴァルデスを気に入ってくださった優しいお母さんに
  決めようかと思ったのですが、
  山橋さんから、すでに居る犬2頭とヴァルデスと
  愛情が分散され、ヴァルデスも犬たちも
  寂しい思いをするのでと断念。

 

5、ボランティア登録家族 
  ご年配の方が中心となってお世話をする家庭で、
  トイレの近いヴァルデスは、
  負担になりお気の毒だからと断念。

 

 

一件、一件山橋さんと事務局に集まったり、
電話で話したりして慎重に進めました。

その時、必ず山橋さんは確認するのです。

「ヴァル、どう思う? どうする? 行く?」

ヴァルデスは、じっと私を見つめます。

「ヴァルちゃん、乗る気ではないわ。次にしよう。」

何となくですが、そんな気がして・・・
 

 

引退犬ボランィア探しも暗礁に乗り上げ、
募集をメディアに伝えてもらおうかと模索していた頃、
元パピーウォーカーで、現イベントボランティアの
清重さんに相談したら、
ずっと前からヴァルデスに恋していたと聞き、
急遽お見合い。

 

なんと6件目にして、やっと山橋さんの納得のいく落ち着き先が見つかりました。

 

 

一緒に、歩いている。No3

一緒に、歩いている。 - - harness

8月12日 阿波踊り

どんな会話をしながら踊ったのでしょうか。

ヴァルデスと最後の阿波踊り。


「いけるで?」暑さを気遣い、うちわで扇ぐ。


ハーネス連始まって以来、ずっと向かって右端が山橋さんの定位置。
今年も、その場所を空けておくから、二人で戻っておいでよね。



これは、2013年ですが、訓練士さんと一緒に



 

2000年、山橋さんが突然「連を作って踊ろう」と言い出したのです。

「えっ、踊れるの?」

「なんで? 教えてくれたら、踊れる!」
 

 

それまで、「盲導犬と一緒なら何でもできます」とか

「視覚障がい者の社会参加」など

綺麗事を言っていた自分が、恥ずかしたったのを覚えています。
 

 

翌年2001年、阿波踊り「ハーネス連」が誕生しました。

以来、毎年8月12日 市役所前演舞場、両国橋演舞場へ踊り込んでいます。

盲導犬ユーザー、視覚障がい者、当会の会員、ボランティア登録者なら誰でも踊れます。

また、その方から紹介があると参加できます。

山橋さんが残してくれた「ハーネス連」

 

 

一緒に、歩いている。No4

一緒に、歩いている。 - - harness

8月21日

「秋の全国交通安全運動」に先立ち、下記の会議が開催されました。

「盲導犬と交通安全について」と題して講演の依頼があり、
二つの講演とも、鶴野さんと盲導犬ホップに協力していただきました。

もちろん、交通安全対策関連機関団体の皆様にお話しするのは初めてのことです。

 

10:30〜徳島県交通安全対策協議会幹事会 約60

    徳島県関係各課・警察本部関係各課・交通安全団体・学校・報道
              輸送・自動車など交通に関わるあらゆる機関と業種の皆様

 

13:30〜市町村交通安全対策主管課長会議 約40

    徳島県内の市町村で交通安全に携わる皆様 

 

講演の内容は、
盲導犬歩行について。

盲導犬にできる事と、できない事。

横断歩道を渡る時の注意。
そして、街の中での危険。

静音のためハイブリットカーの接近に気付かずヒヤッとした事や、
歩きスマホをしている人と接触した事など、視覚に障害があるとはどういう事なのか、具体的にお話ししていただきました。
視覚障がい者が街を歩くのは、毎回、命がけであるとも。
ほとんどの方が、盲導犬の話を聞くのは初めてだったそうです。

 

同じような内容で、9月17日の「秋の全国交通安全運動オープニングセレモニー」に講演して欲しいという事で、当日も鶴野さんに協力してもらう事にしました。

 山橋さんは、9月17日、すでに学校訪問の予定が入っていました。

 

この時、講演を聴いてくださった皆様が、視覚障がい者と盲導犬について理解があったため、山橋さんの事故後の対応が早かったのは言うまでもありません。

 

事故の一ヶ月半前、関連機関と団体の皆様にお話できたことが不思議です。



 

 

一緒に、歩いている。 No5

一緒に、歩いている。 - - harness

 

9月1日  事故の一ヶ月前

9月17日 学校訪問 小松島市内の小学校 山橋衛二氏

9月17日 秋の全国交通安全運動オープニングセレモニー 鶴野克子氏

 

すでに決定している二つの書類を並べて、ずっと考え込んでいました。

 

行き先を入れ替えてもらおうか・・・

 

ヴァルデスの引退が頭にあり、最後の大きなイベントにしてあげたいという思いがあったのかもしれません。

しかし、ご本人にも、先方にもご迷惑がかかるのに 今更・・・

 

でも・・・

やっぱり、変更してもらおう!

 

各所に連絡し無理を通して変更してもらいました。

結果的には、変更して良かったのですが、

今から思えば、なぜそう思ったのか不思議です。

 

不思議なことで、もう一つ

私は、SNSもブログも苦手です。
SNSの利用も、他の方のブログも拝読していません。
昨年のブログも
1月1日 新年のご挨拶
7月31日 職員ジュエルの永眠
そして、なぜだか、これは投稿しています。
9月17日 交通安全オープニングセレモニー
事故の後は、連絡と挨拶を数回。

こうして、毎日投稿している自分が本当に不思議です。
私事ですみません。

 

 

一緒に、歩いている。No6

一緒に、歩いている。 - - harness

9月2日〜16
 

 

秋の全国交通安全運動オープニングセレモニーに出席が決まった山橋さんは、与えられた30分の時間を有効に使うため、進行を務める私に、何度も何度も打ち合わせの連絡をくれました。

今まで、こんな事は一度もありません。

 

いつもは、一回の打ち合わせで終了。

テーマはこれ。
こんな質問するから、それに答えてください。
あとは、会場の雰囲気でやりましょう。という感じです。

私が頼りないのは、さておき。

今回は、県知事、県警本部長をはじめ、名だたる面々だからかな?

それにしても、学校訪問で講演は慣れているのに、
ずいぶん力が入っているなと思っていました。


 

講演の一週間前、事務局で打ち合わせをしました。

その時、シナリオを作って欲しいと言われ、簡単な流れを作成しました。

音声読み上げソフトで確認するから、パソコンに送ってと言われました。
 

 

二日後、もっと詳細に、時間配分も書いてと言われました。
 

 

その翌日、セリフも全部書いてと言われました。

 

伝え残しのないようにという真剣さが伝わってきて、私も気が引き締まる思いでした。

 

 

 

一緒に、歩いている。No7

一緒に、歩いている。 - - harness

時系列は戻りますが、8月2日 事故の2ヶ月前
 

イベントボランティアの田所さんが、今にして思えば不思議な事と、お話しをしてくれました。
 

その日は、昼から山橋さんと一緒に啓発ボランティアをして、

休憩時間に、ジュエルが死んだ事を伝えると、一言「ショックだ」と言って肩を落としました。

あまりの落胆ぶりに、一瞬、伝えた事を後悔しましたが、最期の様子を話すと安心してくれると思い。

「でもね、杉井さんの腕に抱かれて眠るように死んだそうよ」

「俺の2頭目のウエインも、俺の腕の中で死んだんよ。今も骨壷は大事に置いてある」

「骨壺は、訓練所の慰霊碑に納めるんじゃないの?」

「そんな、さみしい事はできんよ。1頭目のアルクも一緒におるよ」

「え〜 だけど、どうするの?ずっと置いとくの?」

「ほうよ。俺が死んだら一緒に埋葬してもらおうと思うとる」

「あら、人間と動物は一緒にお墓に入れないって聞いたわよ」

「いやだ!絶対にいやだ!」

「なに、子どもみたいに…」

「そんな事言うのは、どこの宗派? 俺は、皆の衆()の、歩道橋()だから関係ない」
 

何の事か反芻すると、やっと意味がわかった。

二人で大笑いした。
 

「でもさぁ それ家の人に頼んでおかなきゃダメよ」

「じゃあ 田所さん覚えといてよ」

「いいけど、私は山橋さんより10歳上だから、順番ではたぶん私の方が先よ」

「俺が、先に死んだらでええわ」

「わかった。その時は約束するね」
 

もう一度、二人で大笑いした。
 

田所さんはお葬式の時、この話を教えてくれました。

すぐに、山橋さんのいとこに伝えました。
 

今、山橋さんのお墓の隣に、アルク、ウエイン、ヴァルデスが入った墓ができ、並んで眠っている。
一緒に歩いていた頃のように、並んでいる。

 

※ ちなみに、田所さんは東京都出身です。

 

一緒に、歩いている。No8

一緒に、歩いている。 - - harness

9月17日 事故の2週間前
秋の全国交通安全運動オープニングセレモニー

 


前日からの激しい雨は上がったものの、少し雨雲が残っていたので、会場は屋外から県庁玄関ホールに変更になりました。
 

マイクなしで聞こえるほど間近にふれあえる空間です。
ですから、こんな事も

飯泉県知事はヴァルデスと視線が合ってニッコリ。

 


式典は粛々と進行し、我々の順番が来ました。
 

 

まず、
今年の啓発ポスターの左端に「子供と高齢者の 交通事故防止」と書いてあります。でも「障がい者」がないとクレーム!
いえ、おこがましいと思いましたが「忘れないでくださいね」とお願いしました。

 

障がい者の方は、外出が少ないと思われがちですが、山橋さんとヴァルデスは、毎日30分歩いて通勤しています。
通勤ラッシュ時の自動車・バイク・自転車の往来の激しい中でも、帰りの暗い道でも颯爽と歩いています。


 

この日の山橋さんは、なぜか学校訪問のようなユーモアはありませんでした。
シナリオには無かった言葉が印象に残っています。

 

「事故防止はどうすればいいか?
 僕たち障がい者は、見つけてもらうしかないのです。
 危険が迫っても急に逃げる事ができないから。」



翌日の朝日新聞 朝刊の記事です
 

 

 

 

一緒に、歩いている。No9

一緒に、歩いている。 - - harness

9月17日 事故の2週間前
秋の交通安全運動オープニンングセレモニー

 


視覚障がい者にとって、道路を横断するのは緊張します。

その状況を実演するため、交差点を想定して
信号機と横断歩道が用意されました。


 

そして、説明。

交差点では、賢い盲導犬が信号機を見て判断し、誘導してくれるから大丈夫!と思っていませんか?
それは間違い。

 

犬は色の識別ができないため、信号機の色を判断できません。

信号が青になったかどうかは、車の走り出す音や、停止音の聞こえてくる方向、人が歩き出す足音など、さまざまな音を手掛かりにしてユーザー自身が横断するタイミングを判断します。

例えば、目の前を車が横切れば、信号は赤。

同じ進行方向の車が動きだせば、信号は青だとわかります。

もし、ユーザーが判断を間違えて「進め」の指示を出した場合。
危険を回避するため盲導犬は「賢い不服従」といって、
ユーザーを守るため、ユーザーの指示に従わず

停止して教えてくれます。


 

 


さあ、渡ります。

山橋さんはヴァルデスに「Straight go (進め)」の指示。

そして、ヴァルデスは左右の安全を確かめて
横断歩道を渡る・・・・・・はずでした。
ためらうこともなく、迷うこともなくスーッと

 

 

見事に横断歩道を避けて移動。

 

「あれ? 渡りませんね・・・」と苦笑いするしかない。
山橋さんも笑っている・・・

あ〜 せっかくの大掛かりのセットが・・・

後のことはよく覚えていません。

 

それでも気を取り直して、シナリオを見ながらなんとか最終へ。

 

「山橋さんは視力を失い30年もの間、大きな事故もなく無事、徳島の街を歩けたのは、ここにご出席の皆様のこうした啓発活動のおかげで守られてきました。感謝申し上げます。」

 

ここから、山橋さんとヴァルデスへのちょっとしたサプライズ。

 

「そして、山橋さんの目となり、一生懸命安全確認をしながら一緒に歩いてくれた盲導犬ヴァルデスは、来月引退します。ヴァルデスに拍手を送ってやってください。今日は、ありがとうございました」

会場は惜しみない拍手に包まれました。

みなさんを巻き込んで、密かに一足早い引退式でした。

 

 

 

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